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井上ピアノ教室


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車椅子を押しながら…

投稿日:2017-01-25

鉛色の雲が低く垂れこめ、しんしんと底冷えのする日でした。

 

最近、父は思うように足をあげることができなくなり、辻堂の病院に行く時には車椅子ごと乗れる介護タクシーをお願いするようになりました。通院以外はめったに外出しないので、何枚も何枚も重ね着して出かけます。

 

病院に着くと診察の前にまず、いくつかの検査を受けることになっています。採血、レントゲンとまわり、超音波の待合室に入ると、たくさんの人であふれかえっていました。1時間くらい待ったでしょうか。やっと父の順番がきました。

 

このところ筋力が落ちて、手足がすっかり細くなってしまったため、ボタンを外すのも上着を脱ぐのも、普通の方の何倍も時間がかかります。この後にも大勢の人が待っているのに…と思うと私はつい、着替えるのを急かしてしまいました。その時、背後から声がしたのです。

 

「ゆっくりでいいんですよ」

 

検査をしてくださる技師の方でした。父の顔が一瞬、ほころんだような気がしました。その方は、父のゆっくりとした動作に合わせながら、一緒に着替えを手伝ってくださいました。

 

さらに1時間半ほど待ち、やっと診察が終わりました。

 

車椅子を押して外へ出ると肌を刺すような寒さでしたが、、検査室での言葉を思い出すと、心の中がじんわりとあたたかくなりました。

 

こうやって、誰かの小さなひと言に支えられて、私達は生きているのかもしれません。


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