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ピアノ教室コンセール・イグレック♪


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私がレッスンで使っているメソッド・テキストについて

投稿日:2016-03-04

きょうは私のピアノレッスンで使っているフランス奏法のメソッドテキストについて書こうと思います。

まずはこの3冊をご覧ください。


      

いちばん右がコルトー著の「コルトーのピアノメトード」、中央がジャンヌ・ブランカール著の「初心者のためのピアノ・テクニックの基本原理」(ともに全音出版)、そして左がそのまた導入書といえるキッズ向けの「Le Petit Clavier」(フランスの出版社のもので英語とフランス語の解説文、海外から買い付けています。)

アルフレッド・コルトー(1877〜1962)は20世紀前半に、指揮、ピアノ演奏、教育活動に活躍したフランスのピアニスト。録音もたくさん残されていますが、魂のこもったエネルギーのほとばしる音の独特の響きは、今も多くの人の心をとらえます。アルフレッド・コルトーのピアノ、ジャック・ティボーのヴァイオリン、パブロ・カザルスのチェロによって結成されたカザルス・トリオはつとに有名で、20世紀前半を代表するピアノトリオとして音楽史に残る名演を残しています。

このコルトーが書きあらわした「コルトーのピアノメトード」はたいへん細かな練習法が書き連ねられていて(a)、そのすべてを練習することはたいへんなことですし、ただ書いてあることをそのまま練習してもよいのかもしれませんが、その基盤にある目的をわかっていることは大切だと私は考えています。


              (a)

いきなりこのテキストを練習するよりもこのテキストの練習法から根幹的なものを抜粋して書かれた「初心者のためのピアノ・テクニックの基本原理」をじっくりと手のうちに入れてゆく方がずっと上達へ導いてくれることでしょう。 

コルトーの「ピアノテクニックの合理的原理」のさいしょに「鍵盤上での訓練の日課」として書いてある文章はすこし複雑で難解ですが(b左)、初心者用テキストの最初には「指の体操」なるページがあり、比較的わかりやすく書かれています。(b右)

       (b) 

この最初のものはショパンが生前自分のピアニズムの理念を後世に伝えんとして書き始めたピアノについての覚え書きの最初の部分のものです。(ただコルトーはなぜか<ド・レ・ミ・ファ・ソ>のポジションでと書いていますが、これはショパンの言っているとても大事なことが抜けてしまっているので、教室では適宜ポジションを替えています。)


最初の指の体操は、5指の独立、手と手首の柔軟性をつくる基盤となる重要なもので、からだの柔らかい年齢層でもわかってくるのに3か月はかかります。この最初のページの手のフォルムなど若干アバウトで詳しくはすこし違っているところもありますし、また解説文の日本語訳も文章が固く説明が難解で誤解されやすいところもありますので、私はブランカールが著したものをよりわかりやすく、No.1やNo.4のたいせつな体操も、最近では日常生活でも手首を使うことが少なくなってきているため、生徒の進度や年齢、経験年数に応じて目的がどこにあるかを明確にしながら、オリジナルな方法を使って教えています。


こうして5指の独立と手首の柔軟性がすこしわかりかけたところで、1指の軽やかさと手首の水平の動きをともなってスケール・アルペジオの練習、見直しに入ってゆきます。後半ページでは、重音・ポリフォニー・和音・トレモロなどについてのテクニックが書かれていて、こうしたテクニック本というのは通り一遍の練習ではなかなか身につくものではないですし、私の教室でこのテキストから入った生徒はこのテキストを少なくとも2回は見直すことになります。そして曲の弾きにくいパッセージのなかにあるテクニカルな要素とこのベーシックをリンクして解説し、テクニックを手のうちにしてゆくことになるのです。


さて私のピアノ教室で「幼児入門コース」から始めた生徒さんの多くは、初心者コースにあがるとこの初心者用テキストの導入書にあたる「Le Petit Clavier」に進みます。

  

こんな素敵なカラー刷りの本で、習ってすぐのLesson1からstaccatoの項があり、すでにLesson1、2からシュットやポワニエなどの技法に触れます。(c)

5指の独立へといざなう項も各章にあり、音階もさいしょはおや指くぐりのない型で音をおぼえることで力みのない方法を取っています。(d)


   (c)

 (d)  

 

またこのテキストを使うのは年中〜小2あたりの年齢ですから、シークエンスの音型や転回音程、半音あげた転調などの練習は、「西洋音楽」の合理的でシステマティックな一面を将来読み解いてゆくロジカル・シンキングを身につけてゆくうえで、よき礎になっていると私は思います。


  (e)

どこかでみたことのあるこんな練習(e・下段)も、シークエンス音型のAgilityの一環としてさりげなくでてきます。・・・ちなみに、フランスではハノンの発音は「アノン」になります。(笑)

 

この導入書「Le Petit Clavier」の解説はフランス語と英語で書かれていますが、いい意味でおおざっぱかもしれません。でもその先の展開がわかっていますので補足的なことはレッスン内で説明をしながら矯正していますし、また年少の子どもたちには【いい音】が聴きわけられることがなによりですから、習いたてのこの時期から自分の指や手の動きと音色の関連が意識されてゆくことは素晴らしいことです。

このテキストが終わると「初心者のためのピアノ・テクニックの基本原理」に進みますが、なんの違和感もなく入ってゆけます。

上級コースでは「コルトーのピアノメトード」を部分的に使うことはありますが、私の考えでは「初心者のためのピアノ・テクニックの基本原理」の中身をきちんと習得さえできれば上級の曲までほとんど問題なく弾けます。 

 

私がこのフランスメソッドと出会ったのは、ニースでの国際夏期アカデミーのパスカル・ロジェ氏のレッスンで或る日「テクニックの基礎について教えてほしい。」と私が申し出たことに始まります。国際セミナーまで来てこんな質問をする生徒も珍しいかもしれませんが、ロジェ氏はさいしょに鍵盤上の指の体操から始まってスケール、アルペジオ、オクターヴの練習などの概要をさらりと解説し、これを毎日やるんだよ、と楽しげに話してくれたものです。私には最初の指の体操のときの音響がとても響き豊かで、背筋がしゃんとするくらいものすごいものに聴こえました。日本に帰って楽譜屋さんで「初心者のためのピアノ・テクニックの基本原理」の最初のページで「あ、これだ。」と指の体操の項をみた時の驚きは忘れられません。

の後ジャン=フィリップ・コラール氏のクラスでは、テクニックの基本と応用の美学とでもいうほどのコラール氏の<ピアノ哲学の洗礼>を浴び、私のテクニック研究が始まったのでした。そこから15年の歳月を経て「Kuroda式ピアノ演奏メソッド」と言ってもいいくらい未就学児たちにもわかりやすく、それがテクニックというまえに、ピアノはそうやって弾くもの、と自然に教えられるようになりました。 

上級生徒たちのレッスンでも、弾きにくそうにしている個所を1回聴いただけでさっと聴きわけ、かい摘んで手や手首をどう使って弾けばよいかを解析し、弾き方の違いで変わる音色の違いを明確に弾きわけ、伝え、何をどう練習すればよいのかを提示することができるようになりました。

おとなの生徒さんたちが忙しいなかでさえ楽しくレッスンを継続し上達を確かなものとしていることや、ちいさな生徒さんたちもニコニコ顔でレッスンに来てくれているゆえんだったら嬉しいですね。  

 

きょう、ある生徒OBのコンサートがありました。桐朋付属高からこの春、桐朋学園音大に進学が決まったところですが、元東フィルコンサートマスターのヴァイオリニスト中島ゆみ子さんとスェーデン放送交響楽団チェリストのエリック・ウィリアムスさんとのピアノトリオの演奏会でした。中島さんは私がプラドのパブロ・カザルス国際アカデミーで勉強した年にアンドレ・マルタン氏の呼吸法のクラスでいっしょだったことがあり、今回の奇遇な巡り合せになんとまぁ素敵なご縁!と驚嘆しました。

この生徒OBが音高に入り教室にあいさつに来た時「僕がさいしょに楽しくピアノを習い始めることができたのはこのピアノ室だったんですね。」と嬉しそうにバッハを弾いてくれたのが印象的でした。


私が「Le Petit Clavier」を初めて教えた生徒こそが、この生徒でした。

感慨深いものがあり、今夜の演奏を嬉しく思いました。


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