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井上ピアノ教室


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心に残ったもの

投稿日:2014-08-22

翠玉白菜の展示が終わり、行列しなくても入れるようになったと聞き、東京国立博物館で開かれている台北故宮博物院展に行ってきました。想像以上に見応えのある展覧会でした。

 

青磁輪花碗 汝窯(じょよう)北宋時代

青でもなく白でもない、不思議な色をしています。酒器を温めるための温椀だったそうです。思わず手に取ってみたくなるような柔らかさ、控えめな姿に引き寄せられました。

 

荷葉玉杯(かようぎょくはい)南宋時代〜明時代

すぼまりかけた蓮の葉の形をした杯。石の塊から彫ったとは思えないほど、しなやかな形でした。

 

陶磁器や書画にまじって、染織絵画というものがありました。染織絵画とは絵画を織物や刺繍で表現したもので、色あせてしまうことから、台北故宮でもなかなかお目にかかれないそうです。特に、宋の時代の織物や刺繍が目に留まりました。

 

こく絲蓮図軸 南宋時代

濃い藍色の池から茎をのばし、花を開く蓮。奥ゆかしい色あいで、気品が漂っています。こく絲とは古代中国のつづれ織りだそうです。よほど近づかないと織物だとは気づかないのか、皆さん素通りしていくので、じっくり見ることができました。

 

こく絲和鳴鸞鳳(わめいらんぼう)図軸 南宋時代

宋画を元に織られたものです。芙蓉には栄華富貴の意味があり、婚礼の祝賀に際して飾られたそうです。弦楽器を奏で合う2羽の鳳凰は、夫婦仲睦まじくという願いが込められているのかもしれません。白黒の水墨画が主流だったこの時代、絹糸で色鮮やかに織られたこれらの掛け軸は、どんなに華やかに映ったことでしょうか。

 

中国歴代の皇帝が継承してきた文物。当時の人々の美意識の高さ、それぞれの作品のたどってきた道のりに思いを馳せると、ため息が出ました。

 

 

涼を求めて

投稿日:2014-07-30

旅の途中、軽井沢の千住博美術館に立ち寄りました。千住博氏は、ニューヨークにアトリエを持ち、世界を舞台に活躍している日本画家です。

 

美術館に足を踏み入れると、木漏れ日のような柔らかな光がふり注いでいるのに、まず驚きました。筒状の全面ガラスが埋め込まれた、仕切りのない開放的な建物。地形をそのまま生かし、ゆるやかに傾いている床。吹き抜けの空間から見える青い空や緑の木々が、千住さんの絵と一体となり、響き合っています。時おりベンチにすわり、雲の流れや風のゆらぎに身をまかせていると、時のたつのを忘れました。

 

トンネルのような通路をおそるおそる進んでいくと、一転して、真っ暗な展示室「The Fall room」が現れます。暗闇の中に浮かび上がる幅13メートルもの滝。前面には水が張られ、作品を映し出しています。ヴェネツィア・ビエンナーレに出品した、この「The Fall」を展示するためだけに作られた部屋です。暗闇が、作品の持つ幽玄さを一層、際立たせています。凛とした力強さがありながら、深い静けさを感じる作品でした。

 

「星降る夜に」という文字のない絵本の原画にも心惹かれました。一匹の子ジカが夜、流れ星を見つけます。その流れ星に導かれるように歩き出して、親から離れてしまい、一夜の大冒険が始まります。夜空に光る星空を鏡のように映してゆるやかに流れる川。静まり返った森。見ているとイマジネーションをかきたてられます。

 

外に出ると、白い紫陽花の上をひんやりとした風が吹き抜けていきました。友人と再訪を誓い、次なる目的地へと向かいました。

  

 

 

 

 

 

シャヴァンヌ展

投稿日:2014-03-10

Bunkamuraザ・ミュージーアムで開催中のシャヴァンヌ展へ行きました。

控え目ながらも深い色合いで描かれた絵。その前にたたずむと、どこからともなく静かな祈りの歌が聴こえてきました。

 

1870年、シャヴァンヌが46歳の時に普仏戦争が勃発、フランスは壊滅的な打撃を受けます。がれきの山となった街、傷ついた人々。パリはかつてない危機に見舞われていました。終戦後、国の復興のためにパンテオンが建てられることになり、壁画をまかされることになったシャヴァンヌ。このパンテオンに描かれた「聖ジュヌヴィエーヴの幼少期」からは、疲弊した人々の心に何かを届けたいというシャヴァンヌの想いが伝わってきました。(展覧会の絵は画家自身の制作による縮小版です)

 

山の中の夕暮れに染まる静寂の湖。女神たちが集う水辺の理想郷。「諸芸術とミューズたちの集う聖なる森」(1884年)は、故郷のリヨン美術館に描かれた壁画の縮小版です。油彩とは思えない淡い色づかい、奥行きをなくした平板な画面が、幻想的な空気を醸し出していました。悲惨な戦争を目の当たりにしてきたシャヴァンヌは、この絵に平和への願いを託したのかもしれません。



壁画家として名高いシャヴァンヌですが、会場では、なぜか晩年に描かれた小品や習作の前で足が止まりました。かたく絡まった心の糸がほぐれていくような、やすらかな気持ちに包まれた展覧会でした。

 

 

 

 

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