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ピアノ教室コンセール・イグレック♪


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ドイツ製ピアノ、ブリュートナー搬入

投稿日:2021-03-18

桜が開き出しましたね。

皆さま、お元気でしょうか。

新学期を来月に控え、いろいろな新しいことにも気もちを新たにされていることでしょう。

 

私のピアノ教室にも新しい出来事がありました。

 

1935年製のドイツピアノBlüthner ブリュートナー Model.10を搬入しました。


奥深い低音の響き、高音部の透明感あるきらびやかな音色に、ほとんど一目惚れ状態で魅了されました。高音部が4本弦構造のアリコートピアノ。高音側の3オクターブの個々の音に、4本めの弦がついています。この弦は他の3本の弦よりもわずかにに高い位置にありハンマーで打たれることはありませんが、ハンマーが従来の3本の弦を叩くとき常にアリコート弦が共鳴して振動します。こうしてアリコート張弦は楽器全体にわたって振動エネルギーを拡大し、とても深淵な色鮮かな音色を作り出すのです。そしてまたこの1935年という製作年代、第2次大戦前のヨーロッパ木材は品質がよいのか、もっともっと大きなグランドを弾いているかのような深い響きに包み込まれます。搬入されて時間単位で、刻々と響きぐあいが充実されてきています。まるで生きもののよう。搬入後一番乗りの生徒に1曲披露したところ、「芯がしっかりありつつ、周りは柔らかなフェルトに包まれているかのようです。言ってみれば、古酒のような味わいある音色。」だそうです。

生徒たちにとってもこの音色は素直に耳を惹き付けられるとみえて、「ここはこうだよね。」と弾き示すと、反応が以前より格段によくなりました。私もこのピアノでは(音楽上の)言いたいことが素直に表現できる、という感じです。

 

 

私がこういったヴィンテージピアノに関心を持ったのは、ここ数年のフォルテピアノ体験が大きいと思います。

 

私がフォルテピアノに巡り合ったのは、遠い記憶では浜松の楽器博物館で見たもの、そこで買った CD でいろんな楽器の音の違いを聴いたもの、そして2014年秋に埼玉のN氏のちいさなピアノ博物館で色々な楽器を弾かせていただいたこと。・・・それらはとても楽しく面白い体験としてありましたが、フォルテピアノの真髄に触れたのはなんと言っても2018年9月のワルシャワでの「第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール」の第1次予選終盤からガラコンサートまで全てを聴いた経験でした。さまざまな奏者が、目の前で楽器を取っ替え引っ替え弾くのを一日中聴き続け、モダンピアニストが単に楽器を変えフォルテピアノを弾いているといった演奏もありましたが、フォルテピアノをしっかり勉強された方たちの演奏というのは明らかに説得力に違いがあり、あぁ何かモダンピアノとは違う世界があるんだなぁという感じでした。

2019年8月にはワルシャワを再訪し、「ショパンと彼のヨーロッパ音楽祭」で15公演を聴きました。この年はピリオド楽器コンクールの翌年ということもあり、モダンピアノに加えピリオド楽器を使ったコンサートもたくさんありました。コンクールで1位になったトマシュ・リッテル、2位の川口成彦さんの演奏もありましたが、私はこのお2人の名前を知っているくらいで、他の人達は名前を見てもどう発音するかもわからないくらいフォルテピアノには疎い〈モダンピアノ頭〉でした。中でもトビアス・コッホとヤノシュ・オレイチャクの2台エラールによるデュオリサイタルは、この世のものとは思えないほど素晴らしいものでした。この音楽祭ではヤブロンスキ、アヴデーエワ、カツァリスといったモダンピアノの素晴らしい演奏会もたくさんありましたが、私はこの辺りからフォルテピアノ演奏家たちの魅力に誘われてきたように思います。

また私自身も、2018年のピリオド楽器コンクールの会場でたまたま隣に座っていたブロードウッドの調律師さんとの話の弾みから「3台の楽器を弾いてみてもいいよ。」ということになり、第2次予選の日でしたが、全員の演奏終了後ステージ上に並んだエラール、プレイエル、ブロードウッドを弾かせていただく、というまたとない経験をしました。私はその数分の間に、「モダンピアノは何とごまかしと利く楽器だろう。」と痛感したものです。その後機会があるごとにいろいろな工房を訪ねるようになり、フォルテピアノやピリオド楽器を弾く機会をいただきました。

購入したブリュートナーを弾き込んでいくうち、わかったことがありました。時々チェンバロっぽい音を聴かせたかと思うと、Pleyelプレイエルにとっても似た音色に驚かされるんです。プレイエルのなかでも、1830年、40年代製作のピリオド楽器であるPleyel、…といっても1台1台また修復家によって音色が微妙に違うと思いますが、川口成彦さんのCD「ショパン/夜想曲&小品集」を通してわかったことには、エドウィン・ベウンク修復のプレイエルの音色がしてきたことがわかりました。それは先述のワルシャワでのショパン国際ピリオド楽器コンクールで使われた、そう、あのステージに並んでいたプレイエルなんです。人間の脳裏に刻まれた記憶というのは、計り知れない力がありますね。このBlüthnerで練習していると、ほんの僅か微妙にむだな手の動きがフォーカスされ、これまで何年か分の練習が一気にこなせているという感じです。「フォルテピアノをつかの間触わった経験が真のピアノ奏法を導いてくれる!」・・・こうしたことは、日本でもこれからの意欲あるピアノ学習者が知るべき方向として、広く認識されるべきかと思います。


また何と言っても、このブリュートナーを使って練習できる幸せ、レッスンできる幸せ、測り知れません。

いい楽器はなんにもよそ行きなことをしなくても「楽器が教えてくれる」・・・、私は媒介者となってそれを生徒たちに伝えている、という感じです。

生徒たちの感性が広がり、いっそう音楽への情熱にいざなわれてゆくことでしょう。 


  


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